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最初に決めるのは「隠さない」— 危機管理広報マニュアルのつくり方〜前編〜

最初に決めるのは「隠さない」— 危機管理広報マニュアルのつくり方〜前編〜

この記事の著者:広報 上砂 智子

前回は、危機管理広報を8つの意思決定ポイントに分解して、全体像をお話ししました。ここからは、その8つを「仕組み」にするために、マニュアルと演習をどう作るかを、前職での経験を振り返りながら、前編・後編の2回に分けてお伝えします。

前編となる今回は、マニュアルの作り方です。

  • マニュアルを作るときに、最初に決めること
  • 初期対応〜対外公表の判断を「型」にする

マニュアルを作るときに、最初に決めること

一番大事なのは何のために公表するのか、なぜ「隠さない」事が重要なのかを全社で理解すること

マニュアルを作ろうとすると、つい「公表文のテンプレート」や「連絡網」から手をつけたくなります。でも、最初に決めておきたいのは前提です。社会的道義を果たすために公表する、そしてそのためには「隠さない」事が重要である、この前提を会社の共通認識にしておくことです。

危機対応でもっとも重要なのは、隠さずに、適切なタイミングと適切な表現で情報を公開することだと考えています。

もちろん、隠したくなる気持ちは自然なものです。会社を守りたい、不確かなことを言って間違えたくない、まず状況を把握してから、と考えるのは、責任感の裏返しでもあります。ただ、危機が起きたときに「なるべく言わないほうがいいのでは」という力が社内に働くと、その調整にものすごくエネルギーを取られます。本来向き合うべき危機、本来向き合うべき社会に集中できないまま、対応が後手に回っていく。これが一番怖い失敗パターンです。

だからこそ、隠そうとする人が社内にいない状態を、平時のうちに作っておく必要があります。危機が起きてから説得しても間に合いません。実際に積極的に情報を公表することで、評価が上がった事例もあります。ピンチはチャンスなのです。

「隠さない」は精神論ではなく、実務上の判断でもあります。取材する側は、事実を掘り起こすことを仕事にしているプロです。小手先で隠そうとしても、何手も先を読まれます。隠そうとする姿勢は、遅かれ早かれ見抜かれます。世論から「適切な情報公開をするしかない」という状況を突きつけられた段階で、なお隠そうとする対応に追われていては、事態は悪化する一方です。

もうひとつ、初動の判断の軸として大事にしたい考え方があります。それは、「法的に自社に責任があるか」ではなく、「社会や被害を受けた方から、道義的にどう受け止められるか」で判断することです。自社に直接の落ち度がない場合でも、自社の事業領域で起きて、誰かに迷惑をかけたのであれば、まずその事実に向き合う。法的な責任の整理は、あとからでも間に合います。順番を逆にすると、「責任逃れをしている」という印象だけが残ってしまいます。

ひとつ補足すると、「隠さない」は「何でもすぐに全部出す」という意味ではありません。わかっていることと、まだわかっていないことを分けて、確認中であることも含めて正直に伝える。これも「適切なタイミングと表現」のうちです。

この原則は、マニュアルの冒頭に明文化して、経営層も含めて平時のうちに合意しておくことをおすすめします。前回お話しした8つのポイントの1番「目的の言語化」は、まさにここのことです。

想定クライシスを洗い出す

次に、自社で起こりうる危機を洗い出します。前回の「開発的な技術が絡むもの」「そうでないもの」の2分類と、世論が高まりやすい4つの軸が、そのまま使えます。

おすすめは、広報だけで考えず、開発・法務・人事・カスタマーサポートなど、部署をまたいで「うちで起きたら一番困ることは何か」を出し合うことです。洗い出しの過程で、「そんなこと起きないでしょう」が「うちでも起こりうるかもしれない」に変わっていきます。この解像度の変化が、洗い出しのいちばんの収穫です。

全部を網羅する必要はありません。まずは類型ごとにざっくり分けて、起きやすいもの、起きたときの影響が大きいものから優先して備えていけば十分です。

洗い出しの段階で「公表するか」まで決めておく

ここで、ひとつ工夫をおすすめします。危機を洗い出すだけで終わらせず、類型ごとに「影響が大きい場合」「中くらいの場合」「小さい場合」と段階を分けてざっくりとシナリオを書き、それぞれについて「公表するか、しないか。その理由は何か」まで書いておくのです。

同じサービス停止でも、利用の少ない時間帯に短時間で復旧したものと、長期間止まって顧客に実害が出たものとでは、判断はまったく変わります。この違いを平時のうちに言葉にしておくと、当日の議論の出発点が揃います。ここで書いたシナリオと判断は、後編で紹介する演習の題材としても、そのまま使えます。

初期対応〜対外公表の判断を「型」にする

危機が起きた当日は、情報を集め、整理し、時間がなく、関係者も冷静でいられません。そんな状況で、毎回ゼロから「出すか、出さないか」を議論していては、判断が遅れます。だから、判断の軸をあらかじめ「型」にしておきます。

判断基準を言語化しておく

対外公表の判断基準として、たとえば次のような観点が考えられます。

  • 影響を受ける人の数と、その広がり
  • 個人情報など、生活者の不安に直結する情報が含まれるか
  • 被害が拡大する可能性があるか
  • 法令や契約上、報告が求められているか
  • 社会的な関心やSNSでの拡散の可能性

基準は完璧でなくて構いません。大事なのは、迷ったときの議論の出発点があることと、誰が最終判断をするのかが決まっていることです。そして、迷ったときにどちらに判断するかも決めておきます。先ほどの「隠さない」という原則に立てば、迷ったら公表する方向で検討する、という判断の仕方になるはずです。

把握している情報を3つに分けて、見える化する

判断の型としてもうひとつおすすめしたいのが、把握している情報の仕分けです。危機の最中は、何を伝えて、何を伝えないのかなど、人によって認識がバラバラになりがちです。そこで、会社として把握している情報を、次の3つに分けて書き出しておきます。

  • 自ら積極的に発表する情報:リリースや資料に載せて、こちらから伝えること
  • 聞かれたら答える情報:積極的には出さないが、質問されれば隠さず答えること
  • 開示しない情報:被害を受けた方の個人情報や、調査への影響など、理由があって出さないこと

ポイントは、「開示しない情報」を決めるときに、必ず理由を言えるようにしておくことです。「個人情報だから」「調査中だから」という理由が、都合の悪いことを隠すための口実として使われると、それが一番の疑念を生みます。仕分けの結果は頭の中に置かず、書き出して関係者で共有しておくと、人によって言うことがブレる事態を防げます。

社内周知と対外発表のタイミングを設計する

もうひとつ見落とされやすいのが、社内への周知のタイミングです。社員が、報道やSNSで先に自社の危機を知ることになると、現場は混乱し、不確かな情報が外に広がるきっかけにもなります。

社内にはなるべく早い段階で、次のことを伝えられるようにしておきます。

  • 外部からの問い合わせは、必ず危機管理チームや広報に集約し、個人や部署で回答しないこと
  • 現時点でわかっている事実
  • 事態が収束するまでSNSなどでの発信を控えてほしいこと

SNSについては、危機に直接関係のない投稿も控えてもらうようにお願いします。会社が大変なときに明るい話題を発信すると、「無神経だ」と受け取られて、思わぬ批判につながることがあるためです。

もうひとつ、社内に伝えておきたいのは、「取材は広報だけに来るわけではない」ということです。会社の出入り口で声をかけられる、知人を通じて連絡が来る、「記事にはしないので教えてほしい」と持ちかけられる、個人のSNSにメッセージが届く、自宅を訪ねられる。こうした形で、社員一人ひとりに接触があり得ます。親しい相手ほど断りにくいので、「個人では答えずに、広報の窓口を案内する」という対応を、あらかじめ全員で揃えておくことが大切です。

「誰に、何を、どの順番で伝えるか」を、型として決めておくだけで、当日の迷いがかなり減ります。

次回に向けて

後編では、このマニュアルを「書いてあるだけの文書」から「使える道具」に変えていくための演習についてお話しします。実際の進め方と、やってみて気づいたこと、そして始め方を紹介します。

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