
障害対応ツールは「内製」できる?
2026/2/12
この記事の著者
代表取締役社長CEO
金築 敬晃
ツール内製における「技術的負債」と「運用コスト」の実態
優秀なエンジニアリングチームほど、「この程度の機能なら、自分たちで組んだほうが早いし安上がりだ」という結論に至りがちです。しかし、ツールの内製化には、目に見える開発工数以上に、膨大な隠れコストと運用上のリスクが伴います。
本質的な事業成長を阻害しないために、検討すべき3つの観点を整理しました。
1. 開発リソースの「機会損失」:差別化への集中
エンジニアの工数は、企業にとって最も希少なリソースの一つです。内製ツールに工数を割くことは、そのまま「顧客価値に直結する開発」を後回しにすることを意味します。
非差別化重労働の回避: 社内インフラや運用ツールをどれほど磨き上げても、それが直接プロダクトの売上や顧客満足度(CS)の向上に寄与することは稀です。
ROIの最大化: SaaSを導入する最大のメリットは、エンジニアを「自社の独自アルゴリズム」や「新機能の開発」といった「競争優位性を作る仕事」に100%集中させられる点にあります。
2. 「運用フェーズ」における非連続的なコスト
「2週間でプロトタイプが動く」ことと、「ミッションクリティカルなサービスとして運用し続ける」ことの間には、巨大な溝があります。
24時間365日の死活監視: 自社サービスがダウンしている最中にこそ、運用ツールは正常に動いていなければなりません。このための冗長化や監視体制を自前で維持するのは極めて高コストです。
セキュリティとコンプライアンス: SOC2相当のセキュリティ基準の遵守、脆弱性への即時対応、権限管理(IAM)の実装など、本業以外の「守りの開発」が永続的に発生します。
技術追従の負荷: 例えばLLMやRAGを活用したツールであれば、基盤モデルのアップデートやライブラリの仕様変更に追従し続ける専任の工数が必要です。
3. 内製とSaaS導入のコストシミュレーション
実際に、エンジニア2名で内製した場合のコストを試算してみると、以下のようになります。
項目 | 試算内容(年収800万円のエンジニア2名想定) | 金額(概算) |
|---|---|---|
初期開発費 | 専任で3ヶ月間の開発(社会保険料等含む) | 約520万円 |
月間保守費 | 稼働工数の20%をメンテナンスに充当 | 約35万円/月 |
インフラ費 | DB、監視、ログ保存、API利用料など | 約50万円/月 |
合計コスト | 初年度:約1,540万円 |
ここには、そのエンジニアが本来生み出せたはずの事業利益(機会損失)が含まれていません。また、担当者の退職による「運用の属人化」や「ドキュメントの形骸化」といったリスクも考慮する必要があります。
結論:インシデント対応こそ「専門の基盤」へ
内製ツールのゴールは「動くこと」になりがちですが、インシデント対応ツールの真価は「自社がパニックに陥っている最悪の状況下で、誰よりも冷静に、最高の設定で動き続けること」にあります。
「餅は餅屋」という言葉通り、運用基盤を専門サービス(Incident Lake)へ切り出すことは、単なるコスト削減ではありません。それは、貴社のエンジニアを「裏方のメンテナンス」から解放し、「攻めのエンジニアリング」へと再配置するための戦略的投資です。
この記事の著者
代表取締役社長CEO
金築 敬晃
熊本大学卒業後、新卒で株式会社マネーフォワードに入社。ベトナム拠点への出向を含め、海外を含む開発現場でマネジメントや開発に従事。2022年に株式会社プレイドに入社し、Platform Engineeringを担当。大規模分散データシステムの開発に携わる。2024年に株式会社SIGQを設立。現在は経営の傍ら、筑波大学大学院においてデータベースの研究に従事。
お役立ち記事一覧


